Luigi Borrelli 解体からのシャツ考察 前編 ~衿~ 

scylt/ 10月 9, 2018/ 縫製の徒然/ 0 comments

メンズ服の愛好家にとって、各アイテムのナンバー1・オンリー1メーカーを探し、みつける経験や語らいは人生の楽しみの一つでしょう。

では、「シャツ」であれば、皆さんはどのメーカーを選びますか?

Fray, Attolini, Maria santangelo , charvet ,Luciano Lombardi, D’avino  , Turnbull&asser

ナポリ勢が圧倒的に強いのは間違いなさそうですが・・

中でも、やはり「Luigi Borrelli」をその候補に挙げられる方も多いのではないか、と思います。

1911年にナポリで創業したシャツのアトリエ、今では世界的にも「高級シャツの代名詞的存在」にもなっているこのメーカー、

小生もその昔、この道を志すそのきっかけとなった「高級ドレスシャツ」の購入、それが「Luigi Borrelli」でした。

この「Luigi Borrelli」、やはり知名度・人気ともに、ナンバー1ということで、ネット検索しても、このメーカーの「蘊蓄」に触れている商品説明やブログなど数多く見られます。

ただ・・作り手の側から、もう一歩踏み込んだ、解体&仕様分析までしているモノは殆ど見られません。

そこで、今回はより細かい「Luigi Borrelli」の観察と分析を、トライしてみようと思います

(※おフルを解体しますので、最新の仕様や別注商品とは異なっているかもしれませんので、あくまで私物の分析という事でご理解ください。)

まずは、アイテム

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Luigi Borrelli

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Luciano 人気のセミワイド衿

型番は、「Luciano」かな。

38size ネックサイズ:37.5㎝ 肩巾:43.5㎝ バスト:102㎝ ウェスト:94㎝ ヒップ:98㎝

(※サイズは日本仕様ですね、またクリーニング・洗いで縮んでますが、今回はサイズスペックは関係ないので)

第一章 衿編 ということで

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Luciano 上衿形状と運針

上衿トップステッチ:3㎝間 33針前後(縮んで増えてる?) ステッチ幅:6㎜ 台衿ステッチ;約25針 ステッチ幅:コバ1㎜ 衿角:85度

そして、早速2つのハンド工程が入ってきます

①ボタンホール:ハンド 15㎜丈×2㎜幅 台衿×身頃の接ぎラインに平行、上に15㎜位置

②内台衿付け;ハンド手まつり 3㎝間 12~13針

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ハンドのボタンホール

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襟ぐり、台衿のまつり留め

身頃に衿を取り付ける際に、外衿はミシンで地縫い、内台衿をまつり留めします。

やはりミシンステッチとは違う、柔らかさがありますね

まつりは、約2.5mm間隔ですが、あまり均一ではありません。とはいえ、外からはこの祭りのすくいの糸は殆ど見られず、得意の「繊細ないい加減さ」(ナポリシャツたる所以ですね)を見せてくれます。

ちなみに、私物の別のBorrelliシャツだと、この襟ぐりのまつりは、7~8針。素材の厚みの違いによるところもありますが、とは言え縫い子さんによって大分差があります・・・

外台衿ミシン地縫い:約13針

地縫いとステッチのミシン目は、倍以上の差があり、使い分けているのが良く分かります。(地縫いを細かく縫うと動きの融通が利かなくなり、着心地が悪くなるので)

ミシン目だけではありません。もちろん糸も違います。

写真下: 上が台衿をまつり付ける糸:20番手位(かなり太い)  下がミシン糸:60番手かな

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まつり留め用の太番糸と地縫い用ミシン糸

さらに、解いてみていきます。

芯仕様が分かります。borrelliは、ナポリ系ブランドの中でも、ドレス感・クラシック感が強く、衿もしっかりしているイメージがあります。(Finamoreはその逆)

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台衿まつり留めの解き、地縫いst

シャツ解説の中で、衿芯の事について触れているモノが結構あります

よく言われるのが

「接着芯」よりも「フラシ芯」が高級。そしてイタリアの高級シャツは「フラシ芯」

これは正しくありません

「フラシ芯」の方が高級というのは、一概に間違ってはいないとおもいますが、シャツのメーカーは、その値段の高低だけで「芯」を選んでいる訳ではありません

実際、Borrelliは、接着芯です。また、Frayも接着芯です。

彼らは、トップヒューズ=永久接着芯という、クリーニングや洗いでほぼ剥離しない特殊な接着芯を使用しています。(以前にもブログで書いたかな・・)

普通の接着芯は、小さな糊のドットが密に並び、アイロンプレス熱で溶けてくっつきますが、このトップヒューズ芯は、特殊な糊がドットではなくフラットに付着し、専用のプレス機で熱接着するタイプなので、強度が強く、ドットのシミ出しも起こりません。

また、糊が乗っている土台地もしっかりと厚みがあり、同時に柔らかさも兼ね備えているので、衿を「継続的に、シワなく綺麗に」キープするには、もってこいの芯と言えます。(ただし、クリーニング(日本の濡れ掛けプレス)による縮みが激しいという、デメリットもあります)

一方で通常の「接着芯」や、もしくは「フラシ芯」で、この「コシ」と「柔らかさ」を同時に兼ね備えているものはありません

Borrelli や Fray は高級シャツメーカーとして、世界のエグゼクティブビジネスマンに選ばれるシャツブランドです。

世界のどの地でも、つまり、どのクリーニング事情でも「シワなく綺麗な衿」が求められます

その為、「フラシ芯」のような、プレスする人の腕で「しわ」が寄ったり、「顔」が変わってしまう仕様では、そのブランドの信頼性が損なわれてしまうと、考えているのではないかと思われます(逆に Finamore などは、カジュアル用途が強いブランドなので、しっかりとしたプレスは求められず、衿は軽く柔らかい「フラシ芯」が選ばれます)

そういう意味で、芯選びにはそれぞれのメーカーの考え方、もしくはその品番の用途 / デザインによって、もっとも最適なものが考慮され反映されているだけで、芯の値段で決めているわけでは無いのです

ちょっと脱線してしまいましたが

次は、芯の付け方

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上衿と台衿の解体

Borrelliは、上記のトップヒューズ芯を使い、上衿には縫い代を含め全面に貼っています。地の目はバイアスです。

今回の表地は、織組織の入ったストライプなので、通常のポプリンよりも地厚感がありますが、それでも全面貼りで、上衿ステッチ幅6㎜の中に、芯付きの縫い代をしまい込んでいます

これにより、衿端は、より重厚感のある仕上がりになります

逆を返せば、固くなり重くなるのですが、こういう芯をどこまで貼るかと言う細かいポイントでも、メーカーのシャツに対する、「衿」に対する考えが分かる訳です

一方

台衿は、外台衿側に芯を接着し、首の当たる内台衿は、芯を貼らずに肌触りを良くしています。これも地の目はバイアスです

縫い代部の芯は殆どカットされています。ただ、上衿の差し込みの縫い代だけには、芯が裁断されずに残されています。

これは、台衿のフロントカーブや、身頃の縫い付け部は、厚みを無くし、すっきり仕上げ、首に当たる上部は、首との接着点であり、上衿との接合点という事で、しっかりさせる意図が推測されます

なお、芯の付け側を内台衿にしているメーカーもあります。これはシャツを売る時は、平置きがメインなので、お客さんの目に付く内側を、シワの無い綺麗な芯貼り面にしているのが理由です。買われなければ着心地もくそも無い・・ということで、見た目重視、これもメーカーの考え方です。(Alain figaret がまさに内台衿派ですが、外人は肌が強いから、気にしないって噂も・・)

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Alain Figaret 内台衿芯貼り(ネット拝借)

また、パターン形状にも触れておきます

台衿の形状、中央あたりが、5㎜程上に凹み、先端は約12㎜持ち上がっています

中央の凹みは、台衿がアウトカーブになることで、上衿の接ぎ寸法=外回りが大きくなり、首周りにゆとりが生まれるのと、上衿の返りが良くなるという2つの効果があります。(※なお上衿の返りは要注意点で、上衿の外回り寸法が不足すると、着用時首の後ろで、上衿がずり上がり、台衿が見えてきます)

ただ、この台衿形状も、これが正解という事ではなく、メーカーによって違いがあります。

下図は、ネット拝借の一般的な シャツ衿の製図パターンですが、台衿が中央付近でフラットで先端だけが持ち上がっているタイプです(先端の持ち上がり方も含め、入門レベルですが・・)

このタイプは上衿の付け側のカーブがインカーブになり、Borrelliのアウトカーブとは反対になります。

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GAPの衿は、インカーブ

このパターンの考え方は、首自体を考えた時に、頭に向かって細くなっていくので、上側がインカーブして、よりフィットしていくという考え方です。

写真は、GAPの衿です。台衿の形状が、中央で凹まず、フラットになっているのがイエローラインの出方から分かります。量販系はこのパターンが多いかな

 

また他にも比較対象として、国産大手シャツメーカー:Fairfaxの衿

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Fairfax 国産大手シャツメーカーの衿

上衿ステッチ 3㎝間 21~22針 地縫い 18針

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Fairfax の衿 フラシ芯

Fairfaxは、小生の一つの目標でもある BarneysNewyork本店にシャツとネクタイを卸している、感度の高さも含めて日本で屈指のシャツメーカーです

Fairfaxのこの衿は、フラシ芯1枚仕様(バイアス地)になっています。芯の縫い代は全面までありますが、衿先だけカットされ、縫い繰り返し易くしてます。

台衿のパターンは、中央が3㎜位凹みのアウトカーブ型、フラシ芯(バイアス地)で、縫い代分はぐるりカットされ、Borrelliとは異なります。代わりに、下から7㎜の所に、表地の縫い代ごとステッチを叩いて芯を固定してます

 

ちなみに、小生は、オーダーシャツの場合、パターン形状で言えば

このインカーブとアウトカーブは、着る人の首の付き方、角度で使い分けています。

首が真っすぐに上についている人、背筋が伸びたタイプの人には、上記のボレリタイプ、逆に猫背気味で、首が前に傾斜している人には、インカーブタイプ(首の後ろで、衿が離れ、抜け気味になるのを防ぐ為)

あとはネック寸法で、ゆとり感を調整するという感じです

また芯仕様に関しては、「トップヒューズ芯」の美しさと厚みを目指しながら、「縮み」のデメリットを解消する「フラシ芯×薄接着芯の二重仕様」にしています。接着芯を貼るのは、厚みをもたせながらバイアス地を固定し安定性を補完する目的があります。

と言うように、

各メーカーも、どっちのタイプのほうが、自分のターゲットに多いのか?または、どういう衿周りをして欲しいのか?、もしくはどっちの方が綺麗に量産しやすいのか? など

それぞれの、メーカーの思惑の中で、選んでいる訳です

という事で、第一章「衿」編は、・運針・芯・パターン についておおよそ触れたので、こんなところで終らせておこうかな。

次は、身頃編

ていうか、ここまでの情報が必要な人、いるんだろうか・・・?

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