アンティークから研と学 ~中編~

scylt/ 3月 29, 2023/ デザインの徒然/ 0 comments

前編は、メンズを中心に、仕様のリサーチという所でしたが、

後編はもう一歩踏み込んで、元の目的である「バナナスリーブ」のパターンを抜いて、研究したいと思います。

今回ポチったジャケットはレディスのジャケット3体。

19世紀後半~20世紀初頭のもので、当時のトレンドなども加味されていて、デザイン・パターン共になかなか興味深い。

では早速一つ目、1890年代 ヴィクトリアン時代のバッスルジャケット 。

グログランリボンとぶらぶらアクセパーツ(Dangles)がランダムに縫い付けられたデザインに惹かれてポチってしまった逸品

この圧倒的装飾デザイン。でも、ミニマムさを漂わせるのは、”黒”とアシメなグログラン使いか?

ギャルソンやヨージが「黒の衝撃」と謳われてデビューというものの、欧州で黒自体が使われてなかった訳ではないことがこれで分かる。

そして、ポイントの「バナナスリーブ」。

このような形は当然、”二枚袖”と思っていた小生。

が実は、一枚袖で、袖口から肘に向かってダーツが取られて曲げられているパターン。これに関しては、もう一つ別の個体も含めて後ほど詳しく解説したいと思う

このジャケットは、装飾的なディテールを追っかける

キューブ型のパーツがまつられた”テープ”が、首元~裾端&胸に縫い付けられ、小ビーズ塊球パーツは糸ループでぶら下げて胸周りに、さらにボタンは装飾くるみボタンと。 

内側の仕様はさらにすごい・・

当時は、インナーにコルセット着用時代。その上の羽織りとしてのジャケットは、超構築的に作られています

身頃は4枚接ぎで、フロントには大きなダーツが2本。ぐるり全身で合計10か所でウェスト分量をカット、7本のボーンを縫い代にまつり付けて保形しています

そして、表地と裏地は「無双(重ね縫い)仕立て」。

現在は、「総裏仕立て」という、表地は表地で縫い、裏地は裏地で縫い、それぞれの縫い代を内側に隠すことを目的とした仕様がメイン。

一方当時は、今のように公共の場でジャケットを着脱することがなかったため(というのも、その下はコルセットだったり、もしくはブラウスを着てても、ブラウス=下着という考え方)

縫い代が見えようが始末が何だろうが、内側はあくまで”裏”として作られていればよかった、というのが一つ。

また一つは、この無双仕立てでは裏地が「芯代わり」になること。

接着芯などない時代なので、表地を構築&補強するには、この芯として裏地が役立つ無双仕立てがベストだったわけです(合繊素材のなかった時代、裏地も密度ある綿生地)

脇にはパーツがさらに付き、稼働とスレが多い所の補強をしています

仕事の細かさは言うまでもないですね・・

脇の縫い代は、体のカーブについていき易いように花びら状にカットされて、表地と裏地の端同士は、ほつれを防ぐために細かくまつり付けられています

この縫い代のまつり始末は、AH、袖など含めてすべての縫い代がこれで処理されています

後ろ身や脇に関しては、縫い代部中央に、裏地でくるんだボーンをまつり付け

一方前身では、ウェストダーツのトンネルの中にボーンを差し込み、余った縫い代をカットして端をまつり付けてボーンを縫い閉じるやり方。スマートですね。

まつり糸の黄色の配色コントラストがナイスです。

表地の接ぎ部は、ミシンで縫われているようですが、他はすべて手まつり。まさにオートクチュールの世界ですが、当時はこれが当たり前。

この1着に、どれだけの時間がかかっていたのか・・・ ? 頭が下がります・・

2つ目のジャケットは、

1850年代のシルクジャカード織り(Brocade織)のスタンドカラージャケット 

CHINA(シナ)柄が特徴的で、当時のオリエンタルからの芸術的な影響を感じさせます

1860年代のロンドンとパリの万国博で、日本の浮世絵や文化物がヨーロッパに紹介され、その後世の画家に影響を与えたのは有名な話ですが

そういうヨーロッパの時代性が読み取れてまた興味深い

割とシンプルに見えるが、意外とシルエットは凝っている。

身頃は丈が短くコンパクトだが、アームホールは外にだされドロップショルダー気味で、背の低いバンドカラーに、下げられた前襟ぐり。

ふっくらしたボディから袖に向かって前に流れてくるラインにエレガントなで優しい印象を受ける。

言ってみれば、”ブルゾン”のようなイメージ。

ポイントは、袖だろう。

アームホールをよく見ると芯入りパイピングがぐるりと巻かれ、袖山には接ぎ切り替え。袖口は装飾的で、グログランテープをプリーツ状に巻き付けて、内側からギャザーチュールと。

ていうか、今でも十分イケてるデザイン。。

内側を見てみる

このジャケットは、先ほどのJKと異なり、裏地が総裏仕様。ダーツとアームホールこそ、縫い代が肌側に来ているが、身頃や袖は縫い代が隠れている

そして「ボーン」も無い。

また、中を開けてみるとフロントの胸部に、かなり厚みのある中綿パッドが入っており、先述した”ふっくらした”印象という”丸み”をもたらしている。

このブルゾンのようなジャケットは半分解する

まずは袖の分解

この袖も、先ほどのジャケットと同じで、実は一枚袖×ダーツで バナナにしたタイプ。

より凝っているのは、袖山部と袖口にも切り替えを入れ、内側の分量をカットすることでより「インカーブ」をつけている所。

紙のパターンに起こしなおすとこう。

スペックでいえば、 袖山は約8㎝、袖幅36㎝で、袖山の”いせ”はほぼゼロ。

現在のジャケットの袖山は15㎝前後、袖山のいせは2~3㎝前後 

小生が作っているメンズシャツのパターンでも袖山は10~12㎝程あるので、比較して考えると、「Tシャツ」のようなパターンと言ってよい。

もちろん、これはドロップショルダーという所がポイントにあるので、セットインスリーブとして同じ土俵で評価してはいけないが、

前に袖を振るバナナスリーブの方法論として、袖を寝かせながら捻じるようにして曲げていくというやり方は単純に勉強になる

ちなみに、ボディのパターンはこれ

アンティークのジャケットに共通の「肩の接ぎ」が後ろに回っている特徴がこのJKにも。また、肩線が膨らんでいるのも、やはりこのブルゾンのようなJKの「丸み」の表現に一役買っているようだ

また、バナナスリーブのAHの付け方という意味で、

袖の接ぎをどのあたりにつけているかという所もポイントで、合印を記入しているが、ちょうどAH前のくりの中心部。

これはいわゆるジャケットの2枚接ぎの内袖位置に近い(それよりも、少し高い位)訳だが、それを1枚接ぎの袖でやっているところに、このパターンの妙がある。

当然、通常の1枚袖のAHの付け位置はカマ底だが、このバナナスリーブに関しては袖口ダーツとの位置関係のバランス、袖の接ぎとダーツを対極におくこと

また、バナナカーブを保つためには、袖をタテに落とすというよりは、捻じりながら面を天地に向けることで、地の目が重力に向かって下(タテ)に落ちることを防いでいるのではないかと思う。

その意味で、この服の一番自然な着用体型としては、肘を少し挙げつつ曲げて手を前に出したような態勢。現在のジャケットが、腕をストンと脇に落とした態勢を基準に作っているのとは、そもそも考え方が違うと。

まぁ、この当時の淑女のスタイル:ボリュームあるバッスルスカートの上にコルセット。手には日傘や羽扇子を持っているような雰囲気、

スカートのボリュームが横にも後ろにも邪魔だから(笑)自然と手は、軽く肘を曲げて手を前で合わせるようなイメージ、まさにその立ち姿がデフォルトとして、パターンに反映されていると言うべきだろう。

ということで、今回はここにもう一つ紹介する予定だったのですが、長くなりすぎたので、次に回そう。

3部作の長編となってしまったが、これにて中編終わり・・・後編に続く

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