第一章:採寸 「優れたオーダーとは?」 

scylt/ 11月 29, 2016/ ビスポークの徒然/ 0 comments

第一章 ~採寸編~

今回は、シャツ(仮縫い版)作成の風景や手順、そして考え方をブログ連載していこうと思います。高級シャツの蘊蓄や解説をしているブログはちょこちょこ見れますが、生産現場を披露しているブログはあまりない・・という事で、「連載」というよりは、長くなるので分けておこうという事ですが、作成現場の裏側の一端を垣間見て頂き、興味を持って頂ければ、と思っております。ちなみに、自分の場合は基本独学なので、シャツ業界を代表している訳ではなく、あくまで一意見としてお読みください

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「採寸」は、 一般的なパターンオーダーで言えば、・ネック周り・肩幅・裄丈(左右)・袖丈(左右)・バスト・ウェスト・ヒップ・袖口周囲(左右/腕時計有無) など約10か所ほどです。

ただし、パターンオーダーにとって、「採寸」というのは、それぞれのメーカー(お店)が用意している何種類かのマスターパターンのどれにお客様を当てはめるかを調べる作業であって、その数値を元にパターンを作成するということではありません。

それゆえ、お店側は クラシックスタイル=ゆとりあるサイズ感 とかイタリアスタイル=ウェストの絞りが強め とかブリティッシュスタイル=全体的に細み などと、なるべくお客様の好みに合わせたシルエットを幾つか準備する事で、「何となく」身体に合ったものを提供できるわけです。

実際、高級なオーダーシャツ屋でなければ、基本的には肩のサイズに合わせ、その時点でボディが決まり、あとは首周り、レングスなどディテールレベルの調整しかできません。

とは言え、6000円~8000円ほどで、既製品にはない自分のデザインリクエストが盛り込まれるわけですから、十二分の満足を与えられるわけです。

逆にscyltでは、現状フルオーダーでシャツを作成していますので、このパターンオーダーの考え方とは根本的に違います。そもそも、僕の中には、シャツのシルエットの理想像は1つしかないので、お客様からのリクエストが無い限り、そのシルエットを目指して、あとはお客様の身体に合わせたパターンを作成していくだけなのです。

そして、そのための手段として、「採寸」が存在し、それはマスターパターンに当てはめる「記号」としての数値が欲しいわけではなく、実際のパターン作成するための「生きた数値」の情報収集が必要なのです。

まずは、最初に出した基本的な10か所ほどの採寸はもちろんの事、肩周りを重点的に、さらに7~8か所ほど調べていきます。

そもそも、人の体型は、大きく分けると3つの特徴にカテゴライズできます。

①身幅:太目、標準、細め ②肩:イカリ肩・標準・撫で肩 ③背中:猫背(=前肩)、標準、反身(=後肩)

パターン作成時には、このボディの組み合わせを着る人の身体に当てはめながら、採寸数値を元に、肉付け・調整をしていきます。(日本人は前肩が多いとよく言われます)

僧帽筋

画像お借りしました

その中でも一番気を遣うのは、首~背中~肩にかける「僧帽筋」です。この僧帽筋から肩先にかかる角度を表す「肩傾斜」、そして僧帽筋から背中にかかる立体感がパターン作成の一つの大きな山場となるわけです。なぜならば、この場所は腕の運動量=着心地にそのまま直結するからです。ウールのスーツテーラーリングではここをアイロンワークで立体感を出していくわけですが、シャツに関してはそうはいきません。そのため、このパーツに当たる「背ヨーク」というパターンは、実は、それぞれメーカーの考えや工夫が盛り込まれている一つのポイントになるのです。

僕の場合、この肩回りの採寸方法は、テーラリング界で独自の技術で本等も出版されている服部先生の「斜辺裁断法」という考え方を勝手ながらインスパイアさせて頂いています。バストラインから肩先にかけて斜めのラインと、ネックポイントに向けた垂直のラインを引き、その距離を前身後ろ身と測ります。これにより、パターン上の「ショルダーポイントの設定位置」を探し、同時に背中の立体感、身体の厚みの目安を身幅共に数値化していくわけです。

斜辺と垂直線

ちょっと細かくなり過ぎてしまいましたが・・こうした「採寸」によって、①~③の組み合わせをより具体的な像に結び付け、お客様の数値を加味してパターンを構成していくわけです。僕自身もまだまだ経験が足りませんので、これに関してはとにもかくにも、数をこなし何人もの身体を知ることが、より正確な像=パターン化を実現さえる唯一の道だと覚悟しております。

しかしそれと同時に、実際の所、採寸による数値が全てではないことも知っていなければいけません。これまではパターンナーの仕事、身体→平面(紙)→立体(服)の構造術です。そしてそれと同じくらい重要な、デザイナーの生業、「より美しく見せる術」が、オーダーサービスの更なる付加価値であることも自覚されなければいけないのです 4

例えば、首の長い人なら、台衿を高くして、よりスタイリッシュな襟元を演出できるでしょう、逆に、短い人を標準通りにしてしまっては、首の短さを強調してしまいます。首の丈は、採寸事項には含まれていませんので、お客様からのリクエストが無ければ、台衿の高さは標準に定まってしまいます。これでは、「身体」にフィットしたシャツを作ることはできても、その「人」に合ったシャツを作ることはできません。

スーツのテーラーリングでも、カッターが最も大切にするのは、「観察」であり、また「bespoke」の名の通り、「話しこみ」です。その中で、お客様の身体が最も綺麗に見えるパターン=デザインを模索するのが、カッターの腕の見せ所と言われます。

そういう意味で、本物のオーダーの世界、それはスーツのテーラーリングであれ、シャツオーダーであれ、採寸するカッターは、デザイナー以外の何者でもありません。一般的には、モードブランドで毎シーズン違ったコレクションを発表するのがデザイナーと呼ばれます。しかし、毎日同じシャツを作りながらも、着る人の「身体」に、「好み」にそして「雰囲気」に合わせて微修正を加えていく、パターンや身体、そして相手を熟知した仕事、これもプロフェッショナルなデザインの作業なのです。

「生きた採寸」というのは、つまるところ、メジャーリングだけではないし、採寸箇所が多いから優秀なビスポークというのも当てはまらいのです。

僕としても、一デザイナーとしてこうした事を心掛けながら、新しい「デザイナーズビスポーク」という仕事を目指したいと思っています。

第二章 「パターンと裁断」 に続く

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